月夜にワイン

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自分らしく生きるのは楽じゃないよね。

朝井リョウさんのインタビューを何度も読み返す日曜日。


学生時代の授業でジェンダー学があり、ちょうど「ジェンダー」という言葉が浸透してきた時期だったこともあり履修していた。
授業の中で女性教授が「女性が権利を得て自己実現ができるようになった歴史」を誇らしげに話していたのを覚えている。

「選択肢が増えて自分らしく生きることは、むしろ生きにくくないですか?」

その誇らしげな表情がたまらなくって授業の後に質問した。その時の返答は、

「あなたたちの先輩が苦労して作ってきた今の社会をそんな風に思うなんて悲しいわ」

だった。わたしはそういうことを言っていたんじゃない。

その授業は初回だけでてもう行くのが嫌になってしまい、忌野清志郎を熱愛している教育学の先生の授業に出るようになったけれど、
清志郎が亡くなったタイミングだったので、こちらもこちらで絶妙だった。(笑)

今、同世代と話しているとたまに「毎日困らない程度にお金があればいい」と聞くことがある。
え、まじで言ってんの?と本気で思うのだけれど、
若いときからその言葉を発する背景には割りと深刻な心理状態や社会背景があるんじゃないかなと思ってしまう。
何者でもない自分に目を向けたくないから。
お金という目に見える指標で自分を測ったとき、見えるものが怖いから。
そんな風に感じてしまうわたしは、ちょっといじわるかな。

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極論かもしれないけど、SNSで過激な投稿をする人たちも根っこに横たわっているのは同じような漠然とした不安で、
だとしたら、勤務時間に携帯をさわらないとかそういう指導では絶対に改善されない。
みんな芥川龍之介状態。あれ、太宰治だっけ??

個性をのばすことを目的に導入されたゆとり教育は大成功。
その後政府が直々に「ゆとり教育は失敗だった」と宣言し、失敗作になった私たち世代。
自分らしくあることを生き続けることの先に、何が待っているのか少し怖い気がする。

記事の最後で朝井さんが書いていた言葉がいいなぁ、と思った。

「物語で大事なのは、物じゃなくて語りの方だ」
最近読んだ藤田祥平さんの小説にこんな言葉が出てきて、すごく印象的でした。
自分はスペシャルな経験を持っていないのだから、なんてことない「物」を「語り」で成立させていこう、
そういう気持ちになりました。

朝井さんの新刊が楽しみ!


by wineID | 2019-03-17 17:03 | 日常のあれこれ