月夜にワイン

wineid.exblog.jp

2020年 01月 20日 ( 1 )

私たちが失くしてはいけない時間

夕暮れの陸前高田。
家に帰ったら、押し入れにしまいっぱなしの長田弘さんの詩集を読もう。
ゆっくりと、読もう。
私たちが失くしてはいけない時間_b0016474_16570467.jpg

『しののめの木』 長田弘

ふだんは忘れている。しかし、絶対に失くしてはいけないという時間がある。
夜が明けそめてくるすこし前の、周りをつつんでいた暗い布が不意に透き通ってゆき、
木のかたちをした闇だけが濃い影になってのこっている、薄明の時間。

しののめの時刻、木々たちは、まだ、葉も枝も幹もわかちがたく漆黒のかたちをなしたまま、
そのかたちのなかに、夜の記憶をやどしている。

夜、木々たちはとても雄弁だ。
深いしじまのことばを集めて、さざめきのように話す。

夜の終わりが近づくと、木々たちは口を噤む。
気がつくと、夜の空が遠くから藍色に変わってきていて、
木々たちの枝々のずっと先に、
うすぎぬのような光の織物が、うっすらとひろがっている。

夜でなく朝でない時間のなかに、
しののめの木々たちだけが、原初の時代の巨人たちのように突っ立っている。
わたしたちが失くしてはいけない時間が、そこにある。
敬虔な時間が、そこにある。







by wineID | 2020-01-20 17:22 | 日常のあれこれ